名前を教えてあげる。


(倉橋さん一家とお父さんは、同じ村に住む者同士、家族のような強い絆で繋がっているんだな…)

美緒は感じる。
だから、こんな大きな茅葺き屋根の家に1人で住んでいても、淋しくないのだろう、と。


酒を飲み、顔を赤くテカらせた五郎は、倉橋の話に目尻を下げて頷く。
穏和な笑顔。五郎は死ぬまでこの地で暮らすのだ。


(お父さん、良かったね、この村に来て)


美緒は、心の中で話しかけた。






うっ…うっ…うっ…えっ……


美緒が、音を小さくして、小さなテレビを眺めている時。
どこからか、人の呻くような声が聞こえた。


「な、なに…?」


寒気を感じた美緒がテレビを消し、辺りを見回すと、布団の小山が小さく揺れていることに気が付いた。


「恵理奈なの…!」


四つん這いに掛け布団をめくった美緒は驚いた。恵理奈が頬っぺたを真っ赤にして泣いていた。


「どうしたの?恵理奈、お腹痛いの?熱あるの?」


半分パニックになりながら、恵理奈のおでこや腹に手をやる。


「ね、どっか痛いなら教えて!教えてもらわないと、お医者さんだって困っちゃう!」


高熱はなさそうだ。
掛け布団を引き剥がし、ピンク色のパジャマ姿の娘の身体に怪我がないか点検する。




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