名前を教えてあげる。
美緒が顔を上げると、目の前に銀色の包み紙に入った菓子があった。
ーー良かったら、どうぞ。
順は柔和な笑顔を見せる。
美緒はそれに手を伸ばした。
チョコレート・バーだと分かった途端、美緒の胃はキュルル、と音を立てた。
砂浜を走る風の音で、順に聞こえてしまうことはなかったけれど。
ーー俺、最近眠れないんだ……
静かに凪ぐ海を見たまま、順はつぶやいた。
ーーどうして?
美緒がチョコレートを一口齧った途端。
ーーうわあっ!あっまあ!
美緒は叫んでしまった。
口の中にじわじわと異様な甘さが広がる。
美味しい、とはとても言えない。
順は、楽しげにククッと笑った。
ーーチョコレートハニーヌガーだよ。アメリカに住んでる叔父が一時帰国してて、その土産。
とんでもない甘さだろ?
俺はすげえ好きなんだ…
ーーうっそお?私、甘い物好きだけど、これはちょっとなあ…
視線と視線が絡み合う。
月明かりが順の黒眼に反射して、まるで順が今にも泣き出しそうに見えた。
ーーなんで眠れないんだろう…こんなこと初めてなんだ…
今までバスケと勉強のことばっかり考えてたのに……