名前を教えてあげる。
白い長襦袢を着せられた美緒は、慣れない着物に戸惑うばかりで、仏間のある和室に棒立ちになっていた。
紅い絹の、牡丹が咲き誇る艶やかな振袖が衣桁に吊るされ、初冬のそよ風に揺れていた。亡き母の形見。
美緒は、成人式にも着物を着ることがなかった。
『あの着物を着た美緒の晴れ姿の写真をこの家に残してくれんか?…紗江も喜ぶと思うから』
五郎がそんな提案をしたのは、昨晩の夕飯の茶碗洗いを2人でしている時だった。
突然の思い付きだったのにも関わらず、雅子は着付けを、伸明はカメラマンを快く引き受けてくれた。
「ほら、いい笑顔しなさい!」
カメラが好きな人の良い伸明は、一眼レフのカメラを掲げ、大きな身体を丸めるようにして、由美、加奈、恵理奈の3人組を撮影しまくっていた。
「今はいいよねえ、どんなに撮ってもお家でプリント出来るけん。昔はいちいち現像に出さんといかんかったもん」
雅子は美緒の着付けに使う洗濯バサミを咥えながら、器用に喋る。着付けの講師の免状も持っているほどの腕前だというから手際はとてもいい。
「お着物、すごくいい状態で保存されていたけん、五郎さんが大事にしちょったの分かるわあ…
はい、これで一丁上がり!」