名前を教えてあげる。
雅子が心配そうに眉を顰め、美緒の耳元で囁いた。
「これから、お兄ちゃん、みどりさんと鬼の舌震(したぶるい)行くんだって。うまくいくかな?」
雅子は、40過ぎて独身の兄をとても気に掛けているのだ。
「へえ。やるじゃん。鬼の舌震ってどんなとこ?」
美緒は、振袖の裾をひらひらさせながら言う。撮影はもう済んだのでみどりと健介を除き、皆で最後の食事会をする予定だった。
その為に、カメラマンの役目を終えた伸明は、慌ただしく車で街の大きなスーパーへ寿司や飲み物を買い求めに出掛けた。
「自然がいっぱいの渓谷だが。大きな岩がゴロゴロしとって、鬼も震えるって意味で舌ブルだわ。
美緒ちゃん、今回は時間無くて行かれんだったけど今度来るときは、私、案内するけん。すごくいい景色なんだよ」
声は明るいものの、雅子の目は淋しさを隠し切れないでいた。
「ありがとう。雅子ちゃん。またきっと来るね…」
雅子の顔を見ていたら、美緒は不意に涙が出そうになってしまった。
明日の早朝、美緒と恵理奈は国分村を発つ。五郎の軽トラックで駅まで送ってもらい、1時間に1本しかない、単線の電車に乗る。
淋しいと思いつつも、ここにいられるのは1週間だけだと、ちゃんと割り切っていたはずなのに。
「これから、お兄ちゃん、みどりさんと鬼の舌震(したぶるい)行くんだって。うまくいくかな?」
雅子は、40過ぎて独身の兄をとても気に掛けているのだ。
「へえ。やるじゃん。鬼の舌震ってどんなとこ?」
美緒は、振袖の裾をひらひらさせながら言う。撮影はもう済んだのでみどりと健介を除き、皆で最後の食事会をする予定だった。
その為に、カメラマンの役目を終えた伸明は、慌ただしく車で街の大きなスーパーへ寿司や飲み物を買い求めに出掛けた。
「自然がいっぱいの渓谷だが。大きな岩がゴロゴロしとって、鬼も震えるって意味で舌ブルだわ。
美緒ちゃん、今回は時間無くて行かれんだったけど今度来るときは、私、案内するけん。すごくいい景色なんだよ」
声は明るいものの、雅子の目は淋しさを隠し切れないでいた。
「ありがとう。雅子ちゃん。またきっと来るね…」
雅子の顔を見ていたら、美緒は不意に涙が出そうになってしまった。
明日の早朝、美緒と恵理奈は国分村を発つ。五郎の軽トラックで駅まで送ってもらい、1時間に1本しかない、単線の電車に乗る。
淋しいと思いつつも、ここにいられるのは1週間だけだと、ちゃんと割り切っていたはずなのに。