名前を教えてあげる。
職を転々とする父親は、気に入らないことがあると真由子や妹を殴るという。
『母親は見て見ぬふりをするか、殴られることをするようなあんた達が悪いってさ。そんなことより、あたしは足が凍るような工場で1日中、魚さばいてるんだから、休ませてくれ、だって。
あたしね、お金貯めて卒業したら家出るんだ。アパート借りるの。
智子、置いて行くのは可哀想だけど、あいつは来年中学だから、連れて行くわけにいかないもん』
当時、真由子は小さな青果店でアルバイトをしていて、時々美緒にジュースや菓子を買ってくれた。
アルバイト代半分を生活費として母親に渡すというから、100円だって惜しいはずなのに。
遠慮する美緒に、『出世払いでいいよ』
と冗談を言って。
友達になって2年が経つけど、幼馴染みみたいに仲がいい。
「ねえ、順ってサンフランシスコ行ってるんでしょ?いつ帰ってくるの?帰ってきたら、ラブホ行くんでしょ?」
真由子は矢継ぎ早に尋ねる。
昼間の教室で、ラブホ、などと堂々と発言する真由子に美緒は焦った。