名前を教えてあげる。

順のどこが1番好きかと問われれば、
美緒は迷わず目だと答える。

くっきりとした二重のアーモンド・アイズは、順を涼やかで理知的な男に見せていた。

小悪魔的なビキニ・スタイルの女達が思わせぶりな視線を送るのに、少しもなびくそぶりを見せないのが、美緒には嬉しかった。


人目も気にせず、順の肩にしがみついて沖合いまで出た。

美緒は、爪先だちで順の身体に両手を回して抱きついた。海の水は意外に冷たく、人の体温が心地良かった。


おせじにもきれいとは言えない海だけれど、2人で堂々と密着出来るのは、こんなふうに水が濁っているからだ。


「海とプール、どっちが好き?」


順を見上げるようにして、美緒は他愛ないことを訊く。


「俺?海かなあ。小学5年の時、家族旅行で沖縄行ったんだ。すげえ海きれい。
また行きたいな」


「沖縄⁉いいなあ!」


「美緒は?やっぱ海?」


「美緒はプールがいい。なんとなく…あ」


水の中で、美緒の脇腹に固いものが当たる感触がした。
美緒は順の顔を見つめる。


「ごめん…生理現象だから」


照れ臭そうな順。

美緒の身体の奥が疼く。
順が帰国してから、今日がひさしぶりのデートだった。





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