名前を教えてあげる。
ーー大丈夫、大丈夫…
多分、あれはおり物だ……
美緒は息を深く吸って、自分を落ち着かせた。
「入ろう」
やっとちょうど良い湯加減になり、順は湯の中に美緒を誘う。
紫色に染まる温泉の素を入れ、余裕のあるバスタブの中で向かいあって座った。
「あ、すごーい、気持ちいい!」
「絶妙だろ?」
ぴちゃぴちゃと、手のひらで湯を掻く音とはしゃぐ声が浴室に響く。
「美緒と順は、身分違いなんだもん…」
「何、それ?」
美緒の口から出た身分違い、という言葉に頬を赤くした順は、ぷっと吹き出した。
「順はさ、モテるでしょ?」
「ええ?そんなことないって。中学から男子校だし。言ったでしょ?バスケと勉強ばっかしてたって。
たまに、校門とかで待ち伏せして手紙とかくれる子いたけど」
「あ、やっぱもてるじゃん!」
「いやいや。女の子同士でやたらキャーキャー騒いで意味不明だし。苦手……
こっちこそ、美緒が俺を彼氏にしてくれて、本当ありがとうって、拝みたいくらいだよ」
順はおどけて、湯の中から勢いよく両手を出し、美緒を拝む仕草をした。
ちゃぷり、と湯の雫が飛び散る。
「本当?なら…」
美緒は俯き加減に訊いた。
「どうして私のこと、好きになってくれたの?」