名前を教えてあげる。
・刹那の中に永遠があるならば
猿島を2人で見に行った日から、常に胸に秘めていた疑問。
順なら、どんな女の子でも彼女に出来るのに。
例えば、人気アイドルグループにいそうなロングヘアの美緒の同級生。
ボーイッシュで明るくて、スポーツ万能の隣のクラスの女生徒。
容姿に恵まれた彼女達は、他校の男子生徒が見にくるほどの人気者だ。
そして、地味目な美緒と友達になろうなんて決して思わない。
順の伸びやかな容貌、明るい眼差し、よく響くバリトンの声は、そんな子たちも虜(とりこ)にする魅力に満ちているのに。
それなのに。
今まで、訊きたくても怖くて口に出来なかった質問だった。
現実離れした異空間にいるせいか、美緒の口からするりとたやすく飛び出した。
「ええっ?何それ?」
「ねえ、教えて?どうして?」
「う〜ん……そうだなあ」
順は視線を天井にして、しばらく考え込むふりをする。
美緒は質問したことを後悔した。
ヘンな答えが帰って来たらどうしよう。
「分かった!」
順は美緒の両肩に手を置くと、きっぱりと言った。
「……美緒が美緒だから好きになったんだよ!」
考え込んだわりに案外、平凡な答えが返ってきて、ほっとしたくせに美緒はわざと拗ねた口調で言い返す。