名前を教えてあげる。


ヘッドボードに埋め込まれたデジタル時計は10:38pmと表示していた。


掛け布団を蹴散らかした、赤いシーツの上に2人、もつれるように倒れこんだ。


「順……」


美緒は、濡れ髮の順の身体にしがみつく。


「お願い…もっともっと抱いて…」


順は、こくり、と頷いてあちこちに水滴のついた美緒の身体を抱きしめる。


身体中の全ての皮膚が、順に触れていないと不安になった。


「やだ…もっときつく。離れたくない」

「俺だって離れたくないよ」


順がなだめるように言う。


「俺がいるから…」


頭を撫で、組み伏せるようにして抱きしめてやっても美緒は満足しなかった。


順の背中に手を回し、渾身の力を込める。


「もっと深くつながりたい。
好きだから。愛してるから……順が望むなら何でもするから…」


順の胸の中で美緒は『刹那』という言葉を思い出す。


永遠が欲しいのに。今は望んではいけない気がした。


小さ過ぎる窓の、赤いシーツの、
いろんな男女の秘め事が行われるこの部屋では。




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