名前を教えてあげる。


今日から、順は塾の夏期講習に参加することになっていた。

朝から夕方までそこで様々な課題をこなし、帰宅してからは、山のような宿題をこなす。

そんな生活が夏休みの終わりまで続く。

順の目指す大学は、そこまでしてやっと受験の資格を与えられる難関校なのだ。


「もっと一緒にいたい……」


喉から出かけた言葉を美緒は、ぬるくなったコーヒーと一緒に飲み下す。

そんなことを言って順を困らせたくなかった。


もう時間だ。


美緒は自分のポーチから、リキッドのファンデーションを取り出し、急いで首筋に塗りたくる。

アイメイクとグロスしかしないのに、そんなものを持っているのは、キスマークを隠す為にだ。



外へ出ると、夏の太陽がアスファルトの舗道を照りつけていた。

美緒は一瞬、くらり、と眩暈を感じた。


順は繋いだ美緒の手を、半ば引っ張るようにして歩く。
多分、塾の時間を気にしているのだろう。


そんな順の切り替えの早さを美緒は、ずるい、と思う。

繋いだ順の手からは美緒に対する愛情が充分、伝わってくるのに。




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