名前を教えてあげる。
さらに謹慎期間には、いつもはグループ当番制で行うトイレ、風呂掃除を1人で全てやることが課せられた。


小学2年生の時から、年上の子供達が罰を受け、泣き叫んで反抗している姿を嫌というほど見て育った。


それは小さな修羅場だ。

ここでは、物分りの良い優しい父親や母親はいない。


大勢の大人達に取り囲まれて、まるで犯罪者のような扱いを受ける姿は、『みせしめ』以外の何物でもない。


幼心にああはなりたくない、と思い、小心者になるか、自分ならもっとうまく立ち回ってやると小狡いひねくれ者になるかだ。


美緒は、前者だ。


学園にいる子供は、自分の無力さを知っている。
そして、成長するにつれ、自分が不運であることを知る。


片親であろうが、貧しかろうが、同じ学校に通う子供達は、自分を護ってくれる唯一の場所ーーー『家庭』というーーー
を当然のように持っていることが分かる。


自由の効かない養護施設で暮らさなければ生きられない運命は、
少年少女達にとって、トンネルに閉じ込められたのと同じ絶望感を与えた。


絶望の中に希望を見いだし、生きなければならないのだ。


それは時に人を強くする。




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