名前を教えてあげる。
ーーあ、まただ……
美緒の腹の奥でぽこぽこ…と音が鳴る。
空腹なわけでもないのに。
これまで目を逸らしていた現実に向き合わなければならない時が、ついに来てしまったのだ。
1人で恐る恐る試した妊娠検査薬の結果が、間違いだったなんてことがあるわけがない。
そして、妊娠していることは美緒自身はもちろん、順も知っていた。
2週間ほど前のこと。
カーテンを締め切った部屋で、順は苦しげに眉を顰め、ベッドに横座りする美緒の裸の腹に視線を落とした。
『…なんか、おかしくね?
太ったっていってたけど…違うよね?』
語尾に、否定して欲しい、という願いが込められている事は美緒にも分かった。
だが、それはもう無理というものだった。
学校の制服のスカートは、もうとっくにホックが止まらなくなってしまったのをオーバーサイズのベストを着て誤魔化していた。
それでも、美緒の腹が大きくなっているのは、学年でも三田村学園でも噂になっていた。
順の次に大切な存在だったはずの間柴真由子は、美緒の方から切り捨てた。
心配事があるなら、話して、と言ってくれたけれど、相談相手にもならない友人の言葉などうざったいだけだった。
急に態度が変わった美緒に、真由子は戸惑っていたが、すぐに他人のふりをするようになった。