名前を教えてあげる。
学園では、汚いと皆が嫌う仕舞い湯に入るようにしていたけれど、集団生活の中で、体型の変化を完全に隠し通せるわけがなかった。
極度の人間不信のように人目を避ける日々。
もう、限界だった。
『……多分、赤ちゃん…出来た』
そのセリフを口にした途端、胸に閊えていた巨大な黒い塊は透明な水となって、美緒の瞳からこぼれ出した。
『…そうなんだ』
順が頷く。
手元の電気スタンドのスイッチを点け、美緒の目を真っ直ぐに見た。
LEDの白い光で、順の耳から顎に続く滑らかな輪郭がくっきりと浮かび上がる。
順の返事が、意外に冷静だったことが美緒を救った。
そうだ。
もっと早く、こうすべきだったんだ、と思う。もっと早く。
黒い塊は昇華されたわけではない。
それは順に半分乗り移っただけだ。
時間が経つにつれ、事の重大さがじわじわと順を締め付ける。
しばらくの無言の後、順は言った。
『…美緒はどうしたい?』
暗がりの部屋で掠れた声で訊くのに、美緒は涙ながらに、わからない、としか答えようがなかった。
生む事も、堕ろす事も出来ない。
生理が来ないのは、ただの生理不順だと思っていた。