名前を教えてあげる。
生理痛の酷い美緒は、生理なんかなくなればいい、とずっと思っていたから楽でいい、とすら思っていた。
だが、夏が終り、二学期が始まる頃になると少しずつ不安が芽生え始める。
順はいつもコンドームを使い、避妊してくれていた。
ただ、あの時だけは別にして。
ーーーもしかしたら……
その考えが浮かぶたびに頭を振り、打ち消して過ごして来た。
よくドラマでは、女が急に吐き気に襲われ、妊娠に気が付くではないか。
悪阻(つわり)。
美緒には悪阻がなかった。
ただ、尋常じゃないくらい、眠くて眠くて仕方ない時期があった。
夜9時に寝ても、次の日の一時限目から最後の科目までずっとウトウトしてしまうくらい。
もうすぐ、もうすぐ生理が来るはずだ。
だから、違う。妊娠じゃない。
……便秘気味だから。この頃、太ったから………
そう思いながらも、いつしか、身体の奥に芽生えた物を自覚するようになった。
この数週間、腹の中の異物がいつの間にか消えて無くなれ、とただ祈るしかしなかった。
順が受験勉強の為に、スーパーのアルバイトを辞めたタイミングで、美緒もバイトを辞めた。
就職活動に専念する、というのが表向きの理由だが、のんびりバイトなんてしている心境じゃなかった。