名前を教えてあげる。
ーー多分、順とはもう逢えない……
17年の人生の中で、1番大好きで、誰よりも大切な人だったのに…
美緒は涙に濡れた瞳で、順の背中を見送った。
『…普通の家庭のお嬢さんだったら、こんなことにはならないでしょうに!』
帰り際、順の母が美しい眉をゆがめて放った一言が、美緒の胸に突き刺さった。
その場にいる園長たちも、彼女の本音に凍りついた。
今まで、順の家に遊びに行くたびに
笑顔で挨拶を返しておきながら、内心自分を嫌っていたことをその時、知った。
普通の家庭の子じゃない。
それは確かだ。
だが、その言葉は三田村学園の生徒達や、それなりに愛情を持って子供達に接している職員達を卑下するものだと、勝ち気な本性を剥き出しにした順の母は気付かなかった。
「ちょ…ちょっとお、美緒!こんなとこで泣かないで!人が見てる。恥ずかしいじゃない!」
田中みどりが声をひそめ、イラついた口調で叱る。
みどりが言うとおり、ぽろぽろと涙をこぼし始めた美緒を、何事かと周りいる妊婦が好奇の目で見ていた。
やけに年若い妊婦。トラブルを抱えているらしい。
他人から見たら、面白いスキャンダルに違いない。