名前を教えてあげる。
「ごめんなさい……」
美緒は、ショルダー・バッグからティッシュを取り出し目にあてがった。
昨晩から美緒の涙腺は、壊れてしまった。
悲しくなると、とめどなく涙があふれ止まらなくなってしまう。
ようやく名前が呼ばれ、診察室へ入ると、中年の男性医師が美緒をまちかまえていた。
最終生理日を訊かれても、曖昧にしか答えられなかった。
それほど、美緒は自分の生理に無頓着だった。
ベテランらしい看護師が呆れたような表情を浮かべているのを見て、いたたまれなくなった。
「ゴウイ?」
医師はカルテの上に置いた美緒の問診票を見たまま、ぶっきら棒に言った。
「え…?」
意味が分からないのは、美緒だけでなく、付き添いのみどりも分からなかった。
「は?ゴウイ?といいますと?」
みどりが聞き返すと、医師は眼鏡の真ん中を人差し指で押さえながら、美緒達に向き直った。
「だから、合意の上でセックスしたのかって訊いてるんですよ。ここまで隠すなんて、まさかレイプじゃないよね?」
黙り込んでしまった美緒をみどりは肘でつついた。
「合意です…」
美緒は、蚊のなくような声で答えた。