名前を教えてあげる。
「ああ、いるね」
医師はそれだけ言って、美緒に内診台から降りるように命じた。
待合室に戻り、美緒はショルダー・バッグの内ポケットに入った携帯電話をこっそりと見た。
やはり、もう通話もメールも出来ない状態になっていた。朝、気付いたらこうなっていた。
一昨日まで、2人の絆だった携帯電話。
順の親によって解約されてしまったのだろう。
ーー順は今頃、何をしているのかな…
サッシ窓から、冬の青い空を見る。
順は普通に制服を着て、学校へ行ったのだろう。
昨夜、順の父親を初めて見た。
祖父の仕事の関係で、若かりし頃はニューヨークやイギリス、オーストラリアでの居留経験を持つという彼が、順の畏敬の人物であることは美緒にも分かっていた。
順の計算違いーーー
それは、父が寛大な心を持って自分を理解してくれるかもしれない、と考えたことだ。
だが、事が事なので、順もなかなか打ち明けられずにいた。
そこに三田村学園から電話があり、全てが明るみに出た。
順が18年間生きてきた中で、大人は常に自分の味方だった。
それがこの問題で初めて敵になり、叱責されたことに順には相当ショックを受けたに違いない。