名前を教えてあげる。
・きっともう逢えない…
職員達には箝口令が敷かれ、表向きは『胃腸の疾患』ということになっていたけれど、三田村学園内では、美緒の妊娠は周知の事実となった。
美緒には1人部屋が与えられることになり、小さな引越しは田中みどりがやってくれた。
三田村学園にいられるのは、あと数ヶ月だ。春からは就職先のホテルの寮で暮らす。
単位が足りなくなって、卒業出来ず、せっかく決まった職がおじゃんになってはまずいと、園長は産婦人科に行った次の日も今まで通り、学校へ通う事を美緒に命じた。
園長がもっとも恐れたのは、美緒が退学になってしまう事だった。
きちんと入籍していればともかく、未婚で妊娠したとなれば、なんらかの処分を受けることになるだろう。
この就職難で、三田村学園を出た女生徒達が水商売や風俗店で働くケースが年々増えていることに園長は心を痛めていた。
1人の肉親もいない美緒の場合、この職を失えば住む場所も無くなり、さらに自暴自棄になって、2度と戻れない闇へ迷い込んでしまう危険性は高い。
五百部美緒は、8歳で入所してから、目立った問題を起こしたことは1度もない。
職員の手を焼かせることもない。
協調性のある大人しくて素直な生徒だ、という印象を園長は持っていた。