名前を教えてあげる。
普段は2人部屋として使われている6畳ほどのこの個室のいいところは、小さいけれど、テレビがあることだ。
消灯の夜10時にはスイッチを切ることになっているが、ボリュームをうんと絞ればいくらでも観れる。
塞ぎ込む美緒の為に、園長が用意してくれたものだった。
手術の日取りが知らされた。
美緒が思うより急だった。
心の準備が整いそうもないけれど、1日も早いほうがいいに決まってる。
薬を使って、分娩の時のように陣痛を起こすと医者は言った。
陣痛。
ドキュメンタリー番組で母になろうとする女が、獣のような呻き声を立てて、それに耐えているシーンを見たことがある。
手術のことを考えると恐ろしくてたまらなかった。
ーー病院に行ったら、あとは流れに身を任せるだけだ……目をぎゅっと瞑って…痛いのを我慢して……
そうしたら、普通の生活に戻れる……
美緒は自分に言い聞かせる。
そんな時に限って、お腹の子はぽこぽこと音を立て始めるのだ。
存在を主張するかのように。
順の事は、あまり考えないようにした。
もうまったく連絡が取れなくなった今、自分がみどりが言う『受験のはけ口』だったことは、真実な気がしていた。