名前を教えてあげる。


普段は2人部屋として使われている6畳ほどのこの個室のいいところは、小さいけれど、テレビがあることだ。


消灯の夜10時にはスイッチを切ることになっているが、ボリュームをうんと絞ればいくらでも観れる。

塞ぎ込む美緒の為に、園長が用意してくれたものだった。






手術の日取りが知らされた。


美緒が思うより急だった。


心の準備が整いそうもないけれど、1日も早いほうがいいに決まってる。


薬を使って、分娩の時のように陣痛を起こすと医者は言った。


陣痛。


ドキュメンタリー番組で母になろうとする女が、獣のような呻き声を立てて、それに耐えているシーンを見たことがある。


手術のことを考えると恐ろしくてたまらなかった。



ーー病院に行ったら、あとは流れに身を任せるだけだ……目をぎゅっと瞑って…痛いのを我慢して……
そうしたら、普通の生活に戻れる……



美緒は自分に言い聞かせる。

そんな時に限って、お腹の子はぽこぽこと音を立て始めるのだ。


存在を主張するかのように。


順の事は、あまり考えないようにした。

もうまったく連絡が取れなくなった今、自分がみどりが言う『受験のはけ口』だったことは、真実な気がしていた。





< 97 / 459 >

この作品をシェア

pagetop