思い出の守り人
「優希ちゃん、遠野先輩って知ってる?」
「はい。遠野先輩なら知ってます。美人で校内ですごく有名ですよね」
「そうそう! 綺麗な顔立ちにスタイルよし! おまけに性格は優しくて、春陽すごく憧れてるんだー!」
目を輝かせて話す春陽に、優希は遠野を思い浮かべる。
(モデルをしてて、大学に進学しても両立するって噂で聞いたな……)
「俺は顔を知らないんだが、その遠野さんは奏太達に悩みを相談したのか?」
薫が店の壁に寄りかかりながら奏太に問いかける。
店先から薫へと視線を移した奏太がはいと頷いた。
「先輩はモデルの仕事量に反して芸歴が浅く、まわりのモデルから色々言われることを気にしているみたいです」
「ひどいですよね! 遠野先輩をいじめるなんて!」
眉をつり上げ頬を膨らませる春陽の頭を奏太が撫でる。
「出る杭は打たれる、と言うのはどこにでもあるんだよ。これで負けたら遠野先輩はきっと後悔すると思ったから、僕は思い出を守ったほうがいいと判断したんだ」
「――そうだな。オレが働く事務所でも、将来有望で期待された新人が耐えきれなくなって去って行くことはあるからな……」
「あの、もしも色々言われることを忘れたらどうなりますか?」
「モデルの仕事が関係して言われているから、その部分を忘れた場合、仕事への関心が薄くなる可能性があるんだ」
優希の問いに答えながら、紅夜は入り口に近づいて来る長身で髪の長い女性に目を向ける。
入り口から少し離れた奏太が言葉を続けるべく口を開いた。
「悩みながらもモデルの仕事を続けているということは、少なくとも仕事を辞めたくないと思っているからです。思い出を一つ忘れてしまうことでその後の人生が全く変わってしまう人もいるんですよ」
「複雑なんですね……」
紅夜が見ていた女性が店のドアを開けて優希の目の前を歩いて行き、奏太と紅夜は目配せし合う。
それから紅夜が辺りを見渡した後、チェーンを腕から外して手に持った。