思い出の守り人
「近くに関係者はいないようだからここで結界を張る」
紅夜が遠野にキューブを近づける。
するとキューブが光り、遠野のまわりを薄い透明な壁が取り囲んで、彼女の動きが止まった。
その様子に目を瞬かせて首を傾げる優希に春陽が口を開く。
「対象の人の思い出を守るためにその人の動きを止めるの。キューブを持った人は結界内に入れるんだよ」
「そうなんですか……」
(一度に覚えることがいっぱいだな……)
優希が教えてもらったことを思い返していると、紅夜が張った結界の中に奏太が入って行く。
奏太も紅夜と同じようにチェーンを腕から外して手に持ち、キューブを遠野の胸の前に近づけた。
「あなたの思い出は、今は辛くてもきっとこの先の糧になるでしょう。――高梨奏太により、あなたの思い出を守らせていただきます」
奏太のキューブが光りを放ち、やがてその光りは遠野の胸元に吸い込まれて消えて行く。
体感時間は一分もかかったかどうかで、優希は最初にMemories Defense Forceの話を聞いた時のように夢を見ているような気がした。
「本日の任務、完了です」
奏太が言い、キューブを遠野から離す。
結界から出た瞬間それは消え、遠野は何事もなかったように歩き去って行った。
「この思い出を守る力は現実の対象人物へと繋がってかかる。かけられた本人が気づくことはまずないから安心してほしい。――以上、オレ達の仕事はこんな感じだ。何となく分かってもらえただろうか?」
チェーンを腕につけ直した紅夜が優希を見つめる。
未だに思い返したことに頭が混乱しつつも優希は首を縦に振った。
「はい。大体は……」
「他に重要なのは、出来れば避けたいが戦闘だな」
紅夜が顔を顰めて夜空を見上げる。
厚い雲がいつの間にかなくなり、月が明るい光を放っていた。
優希も月を見ようと空を見上げる途中、少し離れたビルの上に人影が揺れた気がした。
しかし、瞬きをした次の瞬間には見えなくなる。
優希は気にすることなく月や星が輝く空を眺め、その後は行きと同じく春陽と手を繋いで現実へと帰った。