思い出の守り人
「わかった。でもあまり無理するなよ?」
瞳を細めた紅夜は奏太の頭をやや乱暴に撫でた。
「はい」
嬉しそうに頷いた奏太は戸惑う優希の方へ向き、次いで春陽を見つめる。
「篠崎さん。春陽をもとに戻してくれませんか?」
「え……?」
「強く抱きしめてやって下さい。それできっと戻りますから」
柔らかい表情で穏やかに言う奏太に戸惑いながら優希は春陽の正面に立つ。
春陽は未だ青白い顔で震えていた。
(いつも明るい春陽先輩がこんな状態になるなんて……)
自分よりも辛い過去があるのだろうと思いながら、優希は息を吸った。
「――春陽先輩……!」
(どうかまた笑って下さい……!)
祈りをこめて優希は同じ位の背丈の春陽を抱きしめた。
腕や体に伝わる震えに、止まれと思いをこめて抱きしめる力を強める。
「あ……」
「春陽先輩……っ」
「――優希、ちゃん……?」
小さく春陽の口から名前がこぼれる。
優希が距離をあけて顔を見ると春陽は数回瞬きをした。
「大丈夫ですか……?」
「もう大丈夫! 優希ちゃんごめんね?」
顔色はまだ冴えないものの、春陽はいつもの笑顔を浮かべてみせた。
「春陽、今日こそ踏ん張るよ。見習いさんにいいとこ見せないとね」
「うん!」
奏太が笑って春陽の手を握る。
握り返しながら春陽も笑う。
二人を近くで見ている優希にはいつもと二人の笑顔が違って見えた。