思い出の守り人
目を強く閉じて車内で頭を下げる優希。
紅夜達に不可能ならば可能性があるのは敵対している治臣達だけ。
祈る思いで頭を下げ続けていると頭に重さを感じ、それは髪を撫でて優希の肩で止まる。
「顔を上げて下さい。――申し訳ないですが、ワタシ達も自分でかけた力を取り消すことは出来ません」
(そんな……! それじゃあ私は何かを忘れたままなの……?)
もしも忘れている思い出が母との大切な思い出だったら。
そう思うと優希は自分の目に涙がにじむのを感じた。
流れないようにこらえる優希は一つの可能性を見いだし顔を上げる。
「十年前に北上先生と美原さんが私と会っているなら、私の思い出を封じたのは先生なんですよね? 私は母を事故で亡くしてるんです……! 忘れているのは母との思い出なんですか……!」
優希が大きな声を出せば治臣の目に影が宿る。
優希の肩から手を離し、冷たく笑った。
「何を忘れているかの見当はつきますが教えられません。ワタシ達が活動する上での規則です。――ただ」
一度言葉を止めた治臣の笑みに悲しみの色が混じる。
「紅夜の力とぶつかったためにワタシがあなたにかけた力は不完全なようです。――これがワタシから言える限界の答えです」
「力が不完全……?」
「ええ。あなたがメモリーズキューブに触れ、覚醒しかけたこともそれが要因でしょう。どちらのキューブも鍵が完全にかかっている者には触れませんから。それに、あなたの不思議な力が十年前のあの日以来に表れた物なら、ワタシと紅夜の力が原因かもしれません。――後はあなた自身で答えを見つけて下さい」
混乱する優希の様子を内心案じながら、治臣は再び車を動かした。