思い出の守り人
「――……っ!」
目の前で横に勢いよく振られた刀に驚いた体は反射的に尻餅をつく。
お尻から鈍い痛みを感じながらも目の前の光景に動けない。
刀が振られて尻餅をついたとほぼ同時に、視界にはハラリと髪の毛が数本舞った。
目を見開く優希の様子に治臣は笑みを消して刀をひく。
「やはりあなたにはキューブを持つ資格があり得るようですね。――ですが、Memories Lock Forceの人間としては簡単に見過ごすことはやはり出来ません。思い出せないのならそれにこしたことはない」
ワタシが更に鍵をかけましょう。
再度浮かべられた、今度は無邪気に見える笑顔にいよいよ優希は体が震えだすのを感じた。
「怖がることはありませんよ。あなたは候補者なのでこちらの世界でも実体がありますが、思い出を封じることで体に傷がつくことはありませんから」
なだめるような声色で告げられる言葉に優希の鼓動は速さを増していく。
さあ、と近づく大きな体に優希は座りこんだまま後ずさった。
このままでは取り戻した思い出をまた忘れてしまう――。
(――そんなの嫌だ……!)
優希は震える右手でキューブを服の上から強く握る。
キューブは冷たいままだが、それでもこの気持ちは曲げられない。
(私はもうお母さんの思い出を忘れたくない!)
逃げなきゃ。
その一心で優希は立ちあがる。
全身が未だ震え、立ち続けることがこんなに難しいのは彼女にとって初めてのことだった。
「……驚きました。刃物を振るわれてそれほど時間をかけずに立ちあがれるとは。――やはりあなたはこちらの世界に来るべきではない」
「!」
瞬時に至近距離で刀を構える治臣が映る。
「これで終わりです!」
(そんなの嫌だよ……!)
気持ちとは裏腹に強く目を閉じて痛みを覚悟する優希。
しかし、何かがぶつかり合う音が耳を刺激し、優希は恐る恐る目を開けた。
「な……!」
そこには驚きに目を見開く治臣の姿と。
「え……」
空中に浮いて治臣の刃を止めている、輝くキューブの姿があった。