恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―



お母さんの話題が出たのは、その日の夕飯の時だった。
珍しく一緒に食卓を囲むことができたお父さんが、食事を済ませた後、言いづらそうに私に「お母さんの事なんだけどな」と切り出した。

「先週電話があって……梓織にそろそろ結婚させたらどうだって言われたんだ」

結婚……?と聞き返したまま、それ以上何も言えなくなってしまう。
だって結婚なんて言葉、今まで意識した事がなかったから。

いずれするにしたって、まだ22だし由宇だって同じだ。

大体、なんで私の結婚をお母さんに勧められる必要があるんだろう。
もう離れて暮らして10年が経つし、今まで私の事を気にかけたような連絡をくれた事もないのに急に結婚なんておかしい。

そう思って顔をしかめていると、向かいに座っていた由宇がお父さんに「結婚って誰と?」と聞くから驚く。

私はてっきり由宇とだとばかり思ってただけに由宇の言葉の意味がすぐには理解できなかった。
私は由宇以外の男の人なんて知らないのに、他に誰と結婚しろっていうんだろうって呆れて笑えちゃうレベルだったけれど……。

お父さんの真剣な顔を見て、あまり呑気に考えてる場合じゃないのかもと気づく。


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