恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「お母さんが海外の支店で働いているのは知ってるだろう?
お母さんが担当している自動車製造会社が一番のお得意様らしいんだけど、そこの社長の息子さんとどうかって」
「お見合いって事……?」
「まぁ……早い話がそうだな。ただ、もちろん強制じゃなくて、お母さんがそこの社長さんと話してた時にお互い同じくらいの子どもがいるって事になって話題に上がっただけだから。
お母さんは、仕事が一番の人だから、その会社と血縁的な繋がりができたら大きいと思っての発言だろう。
お父さんも、今回は少し呆れたよ」
「随分利己的な考え方してんだな。まぁ、知ってたけど」

はっと顔を歪ませて笑いながら言った由宇に、お父さんも頷く。

「お母さんが梓織に今までツラい思いをさせてきたのは、お父さんもよく知ってる。
散々追い詰めて、その後はずっと放置して……それで今回の話だ。
今は冗談半分で言っているんだろうけど、そのうちお母さんは本気で梓織をどこかの知らない男と結婚させようとするかもしれない。
会社のために」

そう言ったお父さんが、私の方を見る。
そして、目を細めて優しく微笑んだ。

「心配しなくてもいい。お父さんがこんな話をしたのは、お母さんから梓織に直接話が行く前に知らせておきたかっただけだ。
梓織はもう成人しているんだし、お母さんの言う事を聞く必要はない。
自分の意思を伝えればいいだけだ」


< 103 / 214 >

この作品をシェア

pagetop