恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「自分の意思……」
「梓織は、肝心なところで自分の意思を口にしないところがあるから。
お母さんの理想を押し付けられ続けてきたから、きっと自分の気持ちを口にして否定されたらって考えが自然と働いてるんだろう。
そんなトラウマになってしまうほど追いつめてしまって、本当にすまないと思ってる」

申し訳なさそうに顔を歪めるお父さんの言っている意味がすぐには理解できなくて、返事が遅れてしまう。
だけど、私が何も言わないとお父さんはどんどん勝手に追い込まれていっちゃいそうだから、わざと明るく笑った。

「そんな事ないよ。だって私、言いたい事言えてるし。
お父さんにだって由宇にだって言いたい放題じゃない。むしろ言い過ぎてわがままな方だと思うけど」

だから大丈夫。トラウマなんてお父さんの思い違いだ。
そう言いたかったのに、お父さんは私の言葉を聞いてますます顔をしかめてしまった。

「確かに日常的な会話ならそうだが……。
例えば、高校の志望校を決める時……梓織は一校も名前を挙げられなくて、結局お父さんが勧めた高校にしただろう?
本当は他に行きたい高校があったのに」
「別に行きたい高校なんてなかっ……」
「インターネットで東高校のページを見てたって、由宇くんに聞いたんだ」


< 104 / 214 >

この作品をシェア

pagetop