恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「それは……ただ制服が可愛いかったから見てただけで、行きたかったわけじゃないから関係ない」
「高校卒業後の進路だって、先生に勧められるまま就職にしただろう。うちの会社を志望したのだって、お父さんが勧めたからだろう?」
「だって私勉強できないから。大学行ったってどうにもならないって思ったし……」
「だけど、高校に入ってすぐの頃、料理部に入ってからはずっと栄養士だとかの専門学校に興味を持ってただろう?
それなのに、三年生になったらそんな事一言も言わなくなって、ただ先生やお父さんの意見を優先させた」
「だって……料理部は楽しかったけど、専門学校ってなったら楽しいだけじゃ済まないし。
きっと私には無理だって思ったから。
でも、ちゃんと納得して就職したし仕事だってきちんとしてるじゃない」

私の口調が少し強くなってしまったからか、お父さんが私を落ち着かせるように微笑む。
そして、「ごめん、梓織を責めているわけじゃないんだ」と困り顔をした。

「ただ、そういう、梓織の周りの希望を優先させてしまう部分が心配なんだ。
だから、お母さんに強く結婚を勧められたら断れない気がしてしまって、梓織の心の準備のためにも先に言っておきたかったんだよ。
梓織の人生なんだから、梓織がしたいようにすればいい。
お父さんはそれを応援したいから、それを忘れないで欲しい」

言いたい事は色々あったけれど。
お父さんがまじめな顔してそんな事を言うから、「分かった」としか返せなかった。

お父さんと私の会話を、由宇はただ黙って聞いていた。


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