恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
東高校に興味があったのは事実だった。
制服が可愛かったからじゃなくて、調理部の活動が興味をひいたからだ。
昔から料理が好きだった。
作ったものをみんながおいしいって食べてくれるとそれが嬉しかった。
勉強ができない自分の、存在意義を見つけた気がしていたのかもしれない。
だから、さっきはお父さんと由宇の手前嘘をついたけど、調理部の活動が盛んな東高校に行きたいと思っていたのも本当だ。
東高校だったら偏差値的にも問題なく入れそうだったけれど、お父さんに志望校を聞かれた時私は確かに東高校の名前を挙げなかった。
就職の時だって同じだ。
お父さんの言うように、栄養士の専門学校に興味があったのに、言わなかった。
意識して言わなかったわけでも、黙っているのが当たり前だと思っていたわけでもない。
無意識にそうしていた。
無意識に、自分の希望を隠していた。
その事に対してなんでだろうだとかいう疑問を持った事もなかったし、さっきお父さんに言われるまで気にした事もなかったけれど……。
言われてみれば確かになんで黙っていたんだろうって気持ちになる。
絶対にそうしたいってくらいの強い思いじゃなかったにしても、こうしてみようかなっていうくらいの希望はあったのに。
一言も言葉にできなかった。
なんでだろうと、自分の事なのに分からなくてイライラし出した時、さっきのお父さんの言葉が頭をよぎった。