恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
『梓織は、肝心なところで自分の意思を口にしないところがあるから。
お母さんの理想を押し付けられ続けてきたから、きっと自分の気持ちを口にして否定されたらって考えが自然と働いてるんだろう。
そんなトラウマになってしまうほど追いつめてしまって、本当にすまないと思ってる』
私は……お母さんの事がトラウマになってるんだろうか。
理想を押し付けられて、期待に応えられないと軽蔑するような目で見られて確かにショックは受けていた。
お母さんの期待にそえない自分を責めたりもした。
私が自分の意見を口にするとお母さんが不機嫌になるのは知っていたから、物心ついた頃からお母さんにずっと従ってきて……。
初めてわがままを言って、行かないでって伸ばした手を振り払われた時は……目の前が闇に包まれたみたいに悲しみしか感じられなかった。
それからしばらくの間は、ひどい消失感みたいなものに襲われて、生きている意味さえよく分からなくて。
お母さんの期待に応えられず捨てられた私は、これから何をすればいいんだろうって、どうすればいいのか分からなかった。
ずっとお母さんの期待に応えたくて、お母さんの瞳に映りたくてそれだけだったから。
私の中で唯一の道しるべだったお母さんが出て行って、何も分からなくなった。
でも、ふと気づいた時には由宇が当たり前のように隣にいた事は覚えてる。
いつも、これでもかってほど傍にいてくれた由宇に……少しずつ生活や感情を取り戻していった事も。