恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
それまで私の世界のすべてだったお母さんがいなくなってしまって、確かにショックは受けたけど、それからの世界の方が私にとっては温かいものだったし今だってそう思ってる。
お母さんが出て行かなければ今がないって事を考えると、あの時お母さんが私を諦めて出て行ってくれてよかったとさえ思う。
それなのに、心のどこかではまだお母さんにこだわってたりするって事?
まさか……とも思ったけれど、じゃあなんで大事な決断の時に希望を言えなかったのかっていう明確な答えが分からないだけに、そんなわけないとは言い切れなくて。
なんだか胸の途中に何かがつっかえている感じがしてもやもやしていた時、ノックが聞こえたと同時くらいにドアが開いた。
「それ、ノックの意味ないから」
顔をしかめて言うと、濡れた頭をがしがしタオルで拭きながらドアを閉めた由宇が「ちゃんとしただろ」と言って、ベッドに近づく。
そしてベッドに座っている私の隣にドカっと座った。
黒いスウェットのズボンに、グレイの半そでTシャツは、由宇のパジャマ替わりの服だ。
きちんと拭けていない髪からポタポタと水滴が落ちてグレイのTシャツにしみこんでいく。
「だらしないなぁ、もう」
見ていられなくて、ベッドに膝立ちになって由宇の髪を奪ったタオルでごしごし拭く。
こんな拭き方は髪に悪そうだけど、由宇のだし関係ない。
髪の傷みよりも風邪の心配だ。