恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
由宇が女の子を冷たくあしらってるところを思い出していたら、一番に卒業式とバレンタインが浮かんできて。
中学の卒業式ではもう嫌がってたから、じゃあ中学のバレンタインを思い出そうと三年、二年と、机に勝手に押し込まれているチョコを見て不機嫌に顔を歪める由宇を思い出して、じゃあ一年の時は……と記憶を辿っていて、ぷつりと。
あれ……。私、中学一年の時のバレンタインデーの記憶がない。
10年近く昔の事だから忘れてるのかなとも思ったけれど、中一のお正月の事は覚えているしなんだかバレンタインのあたりだけ不自然に記憶が抜け落ちている気がする。
中学受験に失敗してお母さんが出て行ってしまって、それから由宇とお父さんに支えられながら徐々に戻ってきた感情と生活。
自分自身を完全に取り戻せたのは、中一のクリスマスの頃だった。
だから、笑顔で迎えられたお正月は印象に残っているのかもしれないけれど……。
それにしたって、なんでその辺の記憶だけがないんだろうと不思議に思う。
バレンタインなら、小学校の頃から私も由宇にチョコをあげてるし、中一の時だって同じようにあげたハズだ。
だったら、思い出に残っていてもいいハズなのに。
小学校の時チョコをあげた記憶はあっても、やっぱりどうやっても中一のバレンタインの事だけは思い出せなくて。
顔をしかめていると、いつまで経っても質問に答えない私にイライラを募らせた広兼さんに、そんな詳細にじゃなくていいからと急かされる。