恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「あ、よく覚えてないんですけど……でも中二の時にはもうかなり冷たかったです」
中二の春休み、一年生の時同じクラスだった子が引っ越すからと、うちでお別れ会を開いた事があった。
その時、由宇はその子に告白されて、思い出として何か由宇の持ち物が欲しいって言われてたけど、「悪いけど」って告白も持ち物をあげる事も一蹴していたし。
その時の私はと言えば、集まった他の子に連れられるまま物陰に隠れてふたりの様子を見守っていたんだけど。
ああでも、由宇が断った時、心のどこかでホっとしたのを覚えてる。
考えてみれば、あれはやきもちの類だったのかな。
告白された由宇と俯いて顔を真っ赤にしている友達を見て、遠くなった心。
常に胸の中にある自分の心を遠くなったって表現するのはおかしいけれど、でもそんな感じがした。
連れ去られたというか、呑み込まれそうになったというか。
それが、きっぱりと断った由宇を見た瞬間、戻ってきて、それで安心したのを覚えてる。
あれは……なんだったんだろう――。
「じゃあ何? あんな顔よしスタイルよしの男に一途にずっと想われ続けてきたって事? それを何も不思議に思わずにただのほほんと過ごしてきたの?
もーなにその漫画みたいなシチュエーション!」
広兼さんが大きな声でそんな事を言うから、周りのテーブルから視線がチラチラ集まる。
それを気まずく感じて愛想笑いして誤魔化しつつも落ち着いてくださいとなだめていると、広兼さんがじとっとした目つきで私を見た。