恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「それに恋愛関係の事全般において鈍いし、まぁそこまで不思議な事じゃないかもね。抜けてんのよ、そのあたりがすっぽりと。
人間誰しもそういうところあるでしょ」
「ああ……広兼さんにおける整頓力的な事ですか?」
「あんた私がおおざっぱすぎるとでも言いたいの?」
「でも、実際広兼さんのデスクの上を片づけるの私ですし」
広兼さんが目に余るほど判子の類やボールペン、クリップなんかを散らかすから。
そう思いながらも言葉には出さずにいると、広兼さんはいいのよ、あんなのと笑う。
「その代り、仕事は人一倍してるもの」
人に自分のデスクを片づけさせておいて開き直るのはどうかとも思うけれど、広兼さんが他の人より多くの仕事をしているのは知ってるからまぁそれもそうかと納得する。
手があけば私の仕事も手伝ってくれるし、私自身も広兼さんのデスクを片づける事に文句をつけたいわけじゃなかったから。
だからその辺はいいのだけど……。
中一のバレンタインの記憶と、由宇の女性関係への想像力の欠如。
今までは気にもならなかったそのふたつが、今になっていっぺんに疑問を投げかけてきて。
広兼さんのいうように、本当に抜け落ちたように私の中に存在しない記憶と想像が、なんだかもやもやしていた。