恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


そんな大事な話をしているわけじゃないのに、なんで胸が高鳴るのか、自分でも分からない。
由宇に真剣な目で見つめられるのなんて、そんな多くないにしても普通にあるし、昨日の夜なんてもっと間近でそうされた。

今はその距離の10倍以上は離れてるし触れ合ってさえいないのに……なんでこんなに鼓動が大きいんだろう。
高鳴るっていうよりは、胸騒ぎに近いかもしれない。

心臓がドクドクとあまり心地いいとは思えない音を身体中に響かせている。

「俺はおまえと違って記憶力がいいからな」

真剣に見つめ返していた私に、しばらく黙った後由宇はそんな風に言ってわざとらしく笑う。
誤魔化されたような気はしたけれど、私も胸が苦しくてそれどころじゃなかったし、由宇に合わせた。

「さっき、高校のクラスの子の名前半分も覚えてないって言ったじゃない」
「だって俺が生きていくのに必要ねーし」
「……それ、かなりひどい」
「おまえだって名取の事覚えてなかったろ」
「それは……ちゃんと話してるうちに思い出したもん」

名取くんの話題を出されて、そういえば来週会おうって言われているのを思い出す。
だから、一応由宇に言おうとしたけれど……。

見上げた先にある由宇の横顔が、さっきの余韻のせいか、私の勘違いなのか、いつもとは違うものに見えてしまって。
なんだか話しかけられなかった。


さっきから感じている胸騒ぎが止まらないのは、なんでだろう。

何かが胸の中で暴れているような心地悪さに、胸の前で手をぎゅっと握りしめた。


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