恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「姫川!」
会社を出ると、いつもは由宇がいる場所に名取くんが立っていた。
私に気づくなり笑顔になって駆け寄ってくる彼に、私もなんとか笑顔を作る。
由宇の事を悪く言った。
それだけで私の中での名取くんのイメージは悪いモノになってしまい、今もそれはそのままで、きっとそれはこれから上がる事はないと思う。
だから、待っててもらったのは悪いけれど、少し話したら帰るつもりでいたのに……。
「よかったー。なかなか来ないから帰ったのかと思って心配してたんだ。
夕飯これからだろ? おごるから食べて行こうよ」
嬉しさを全面に押し出す名取くんを前にすると、断りにくくなってしまう。
由宇も犬っぽいけど、名取くんも犬タイプだ。小型犬っていうか、きゃんきゃん吠える感じの。
「うん……。でも……」
「実はもう予約してあるんだ。女の子に人気のイタリアンって雑誌に紹介されてる店。
姫川、パスタとか食べられる?」
断るつもりだった。
だけど、予約までしてあるって聞いたらそこまでしてくれた名取くんの気持ちを無下に扱う事もできなくて。
少し悩んだ後、笑顔を作って頷いた。