恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
今日誘ってきたのも、もしかしたら仕事に疲れて誰かに話し相手になって欲しかったとかそんな理由かもしれないなぁと、そんな事を思う。
由宇は私に近づいてきた人はなんでも恋愛に結び付けて、裏拳繰り出せとか下段蹴りで足払いしろとか物騒な事言うけど、みんながみんなやましい気持ちで行動を起こすわけじゃないんだから警戒しすぎだと思う。
近づいてくる女の子がみんな自分狙いっていう状況ばっかの由宇にとっては、そういう風にしか思えないのかもしれないけれど。
70%仕事、10%香水、残りをその他の話題で終わった食事を終えて外に出ると、時計はもう21時を指していた。
「じゃあ、名取くん。今日はありがとう」
お店を出たところで振り返って言うと、名取くんは慌てたように「姫川っ、ちょっと待って」と呼び止める。
でも、勢いよく呼び止めた割にはそのあと黙ってしまって……。
なんだろうと思って眺めていると、よし……っ、と独り言のように言った名取くんが顔をぐっと上げて私を見た。
「あの、さ、姫川って星崎と付き合ってるの?」
最近は、広兼さんといいこればかり聞かれるなと思いながら、答えを探す。
「付き合ってはいないかも」
「本当……? じゃ、じゃあさ、また俺とこうして会ってくれない?」
「なんで?」
「え……っ、その、もっと姫川と話したいと思って……」