恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
ふてくされたように言った私に、顔をしかめたままの名取くんが続ける。
駄々っ子を必死に説得しようとしているような、そんな顔だった。
「こないだも話しただろ? 誘拐犯を好きになって自分を守ろうとする人質の話。
姫川は星崎にガチガチに周り囲まれてるから、星崎を慕う事で自由になれない自分を守ろうとしてるだけなんだよ、きっと。
だから、俺が……っ」
「由宇を悪く言わないで!」
声を荒げた私に驚いたのか、名取くんがピタっと止まる。
考えてみれば、由宇相手や家族以外に怒鳴ったりするのは初めてだったし、名取くんが驚くのも無理はなかったのかもしれない。
ケンカした事もないくらいでしかない仲の同級生が、いきなり怒鳴ったのだから。
「なんでそんなに由宇を悪者にしたいのか分からないけど……。
もしも私が人質なら、由宇は助け出してくれた警察だよ」
お母さんに捨てられて、真っ暗闇の中にいた私に光を少しずつ与えて、私の恐怖心を取り除きながらそっと外に解放してくれたんだから。
私を人質って表現した名取くんの例えからしたら間違いなく、由宇は警察で正義だ。
恐らく、私の中心に由宇がいる。
「名取くんの目に私と由宇がどういう風に映ってるのかは分からないけど、私は由宇に望まれて一緒にいるわけじゃない。
私が望んで、一緒にいるの。
だから……もう由宇の事悪く言わないで」