恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「読んだっておもしろくないんでしょ」

向かい合うようにして横になっている私の頭の上に置いた問題集。
それを、肘枕をしながら見る由宇に非難の視線を送りながら言う。

その前に、人の顔を机代わりにするってどうなの、まったく。
由宇はその事になんの抵抗もないのか、謝るわけでもなく問題集を見ながら答える。

「おもしろいわけねーだろ」
「じゃあもう部屋に戻ればいいじゃない」
「でも俺もいずれ受けさせられるわけだろ、これを」
「え……ああ、そっか。明後日からだっけ」

今年三月に大学を卒業した由宇は、私と同じ会社に就職を決めていた。
自分で言うのもおかしいけど、競争率の激しい会社なのに、由宇は夏頃には悠々と内定をもらってそれを私に憎たらしい笑顔で見せびらかしていたけれど、あれからもう半年も経ったのかと思うと懐かしい。

「そ。入社式とか面倒くせーよな。おじさんに言えば欠席させてくれるかな」
「無理に決まってるでしょ。
っていうか、うちの会社受ける事、本当にお父さんに内緒にしてたの? 裏でお金とか渡して内定とりつけたとかじゃなくて?」

私の耳の上あたりで開いていた問題集を閉じた由宇は、それを持って軽く頭を叩く。
ぽすんと頭に乗っかった問題集を取り上げて叩き返そうとしたけれど、予測していた由宇は片手でそれを止めて笑った。


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