恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
家に帰ると、おかえりなさいと玄関まできてくれた星崎さんが、お父さんが今お風呂に入ってる事と、由宇が今さっき帰ってきた事を教えてくれた。
それを聞いてすぐに由宇の部屋に急ぐ。
階段を上がって自分の部屋を通り越して、二つ目の扉をノックなしに開けると、ネクタイを外している由宇が驚いた顔をして私を見た。
由宇の顔に、ホっとして胸を撫で下ろす。
不安定だった呼吸がやっと正常な速さに戻っていくのを感じて、息をついた。
ス……と、今まで私を追ってきていた正体不明のモノが姿を消し、私を呼吸ごと解放する。
「なんだよ、おまえ。ノックぐらいしろ」
どの口が言ってるの。
いつもなら言い返す言葉も忘れて、そのまま由宇に近づいて手を伸ばした。
「その前におまえ、今日どこ行ってたんだよ」
抱きつくと、由宇の鎖骨のあたりに耳がつく。
そこから由宇の心臓の音が聞こえてきて……その音に安堵のため息をついた。
由宇のYシャツについた煙草とアルコールの混ざった香りに、そういえば由宇は今日飲み会だったんだっけと気が付く。
「梓織? おまえ何かあった……」
不自然に切れた言葉が気になって抱きついていた腕を緩めて見上げると、顔を歪めた由宇と目が合った。