恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「だって由宇が言ったんじゃない! 他の男の匂いつけて近寄るなって!」
「だからって水浴びするヤツがどこにいるんだよっ」
「お風呂はお父さんが使ってるんだから仕方ないじゃない! 他に思いついたのはこの水道だけだったんだから!」
「別におじさんが風呂出るの待ってから入ればよかっただけの話……」
「拒絶されたくなかったんだもん……!」
怒っているというよりも、半分呆れているような由宇の言葉を遮るようにして怒鳴ると、由宇が少し驚いた顔をする。
真剣な瞳が、私を見つめていた。
「由宇に、拒絶されたくなかったんだもん……。仕方ないじゃない。由宇が嫌だっていう匂い、すぐ消したかったんだもん……。
消さないとって、それしか頭に浮かばなくて……それで……」
真っ直ぐに見ながら言うと、由宇はしばらく私を見つめて。
それから、はぁ、とため息を落とした。根負けしたみたいに。
「分かったよ。俺が悪かったから。風呂行くぞ」
さっきまでの怒りを表情からも声からも消した由宇が、私の手を掴んで玄関に向かう。
そして玄関に入りドアの鍵を施錠すると、私を持ち上げて靴を脱いだ。