恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「ちょっ……っ、下ろしてよ! 怖いっ」
「全身濡れた状態で歩いたら家中びしょびしょになるだろーが」
「だからって……!」
「梓織ちゃん? どうしたの、その格好……!」

私たちがあまりにバタバタと外に出て行って騒いでいたからか、様子を見にきた星崎さんに驚愕される。

当たり前だ。
ちょっと見ないうちに全身びしょ濡れになっていたんだから。

私にいたっては、ストッキングで庭を走り回ったせいで足の先が汚れてるし。

「こいつが外でずぶ濡れになってたから風呂入れる」

事情を説明もしないで急に結果だけ言う由宇に戸惑いながらも、星崎さんは「あ、でも今姫川さんが入ってるけど……」とお風呂の方を見て答えた。
そんな星崎さんの制止も聞かずに由宇はどんどん廊下を進み、ノックをしてからではあるものの、脱衣所のドアを開けてしまって……。
裸のお父さんがいて鉢合わせになったらどうするの!と叫ぶように言って目を塞いでいると……。

「どうした、梓織、由宇くん……」と驚いた様子のお父さんの声と、ドライヤーの音が聞こえてきた。

「すみません、おじさん。ちょっと緊急事態で。
梓織が水浸しになったから、早く温めてやんないと」
「そんなまんべんなく水浸しになってどうしたんだ……? ひどい夕立でもあったのか? 音は聞こえなかったけど……」




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