恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
そう言いながらドライヤーを止めたお父さんをチラっと見ると、もうしっかりと服を着ていて、ホっとしてから顔を覆っていた手を下ろす。
「由宇にやられた」
「俺じゃねぇだろ!」
「由宇が私を拒否したからだもん! 私は今日、ちゃんと名取くんの事断ってきたって話をしたかっただけなのに急に怒って……!
寄るなって言うから、だから……!」
「あーもう分かったから。その辺は後で落ち着いたら話聞く。とにかく風呂が先だ」
まだ言い返してやろうとしていた私に、お父さんまで「そうだな」って由宇に同意するから、それ以上何も言えなくなってなんだか不発感を持て余す。
「由宇くんも一緒に入った方がいい。新入社員の間は、風邪引いてもなかなか仕事休みづらいだろうから、体調崩さないようにしないと」
そう残して脱衣所から出て行ったお父さんは、恐らく世間と少しずれていると思う。
どこの世界に結婚前の娘の裸を他の男にすすんで見せる父親がいるんだろう。
私でさえ、おいおい……と思うような事を笑顔で言ってのけてそのまま退出してしまったお父さんに、不発感もプスプスと音を立てて萎んで消えてしまった。