恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


お昼前だからかたまたまなのか、店内はまだそれほど混み合っていない。
だから、私たちも好きな席にどうぞって感じで言われたのだけれど、由宇たちも同じみたいだった。

由宇は禁煙席であるこちらの方に歩き出したところで、私たちに気づいたようで。
わざわざ席に近づき「梓織も昼飯?」と聞いてきた。

一応頷いたものの、由宇の言葉よりもその後ろにいる横田さんの機嫌の方が気になってしまって、気が気じゃない。

直視するのは怖いから第六感を働かせるほかない。
もちろん私にそんな特別な直感は備わっていないけど……それでも怒りのピリピリとしたオーラが伝わってくるんだから横田さんのイライラは余程だろう。

私の方が先にいたんだし、なんていう正論は通用しないだろうし、まず怖くて言えない。
だったらなんかもうここに居てすみませんって謝ってしまいたくなるけど……それもきっと逆効果なんだろうなと判断する。

ここはなるべく穏便に済ませたい。切実に。

「なんだよ、元気ねーな」
「そんな事ないよ。早くどっか座った方がいいんじゃない? 店員さん、お水運んでくるだろうし。
ほら、そっちの方とか」

何気なく、離れた席を指し示す私を、由宇はじっと見てわずかに眉を寄せる。


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