恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「なに?」
「顔色悪いけど、どっか具合悪いのか?」
「悪くないよ。それよりあっちの方に座りなってば」
「どうせ腹でも痛いんだろ。いっつも服着る前に寝オチするから冷えたんじゃねーの。
昨日だって俺がシャワーから戻ってきたらそのまま寝てるし、俺が全部着せてやっ……」
「あぁああっ! そうだ! お財布忘れちゃった! 広兼さん、私お財布取りに会社に戻……」
「なに言ってんのよ。そもそも私のおごりって話だったじゃない」
このまま由宇と話していたら確実に痛手を負う事になる。
そう判断して逃げようとした私を、広兼さんがわくわくとした瞳で止める。
表情を見る限り、いいぞもっとやれとでも言っているようだった。
次はどんな話が飛び出してくるのかと、今のこの状況を、心の底から楽しんでいるようなそんな笑みを浮かべている。
「広兼さんの彼氏さんは、広兼さんのそういう、後輩のピンチを心底楽しむ部分をきちんと理解してくれてる……」
さすがにあんまりだと試みた攻撃は、大きな咳払いと睨みつける瞳に阻止されるから、それ以上は諦めて由宇に視線を戻した。
「とにかく由宇、私は職場の先輩と一緒なんだから、離れて座って。
大事な話もあるんだから」