恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「なんで……そんなに気を使うの? 私、由宇が横田さんとか他の女性社員とご飯に行ったって、仕事だってちゃんと分かってるよ。
私が変な誤解して不安にならないようにって思ってくれるのは嬉しいけど、そこまでしなくたって私は別に……」
「おまえは……覚えてないからそんな事言えるんだよ」
「え?」
今まで黙っていた由宇が、顔をツラそうにしかめて私を見つめる。
その瞳は、ひどく悲しそうで……この間のお風呂での事が脳裏に浮かんだ。
それと同時に、過去の由宇の姿が頭の中に映し出されて、思わず言葉を呑む。
一緒にお風呂に入った時、悲しい瞳をした由宇を見て、いつかもこの顔を見た気がするって思った。
でも、その時はいつだったか思い出せなくて、疑問のまま終わってしまったけれど……。
今はぼんやりとだけど、その瞳をした由宇の顔が頭に浮かんでいた。
随分昔の由宇だ。中学とか、それくらいの――。
そうだ。あの時も確か、こんな風に腕を掴まれてた気がする。
掴まれて、悲しい瞳を向けられて……。
――本当に、覚えてないのか?
頭の中に、由宇のそんな声が響いた時。
「――あれ、もしかして……星崎くん?」
ざわざわとした大通りに、由宇を呼ぶ声が聞こえた。