恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「梓織、顔色が悪い。早く帰ろう」

そう言った由宇に腕をぐっと掴まれ連れられるように歩かされる。
そんな私たちを追うように、美里ちゃんの声が後ろから聞こえてきた。

「梓織って、しーちゃん? 嘘、すっごい久しぶり! 覚えてない? 私の事……」

ピタっと止まった私を、由宇は歩かせようと腕を引いたけど……。
私の中から溢れ出た独占欲や嫉妬心、ドロドロした感情が地面に根を張ってしまったように動けなくなった。

美里ちゃんの声が耳から入り込む度に感情が溢れ出し、そのまま重りになって足に纏わりつくようだった。
呼吸が、苦しい。

「今日ね、これから中学の同窓会なのよ。星崎くんとしーちゃんにもハガキがいったでしょ?
私はこれから行くんだけど……ふたりは出ないの?」

ずっとドキドキと煩い心臓。
嫌な動悸を感じながらゆっくりと振り返ると、美里ちゃんと目が合った。

自分が今、どんな顔をしているのかさえ分からなかった。

「よかったら一緒に行こうよ。ふたりくらいなら飛び入り参加でもきっと大丈夫だし。
しーちゃんが無理なら……星崎くんだけでも、行かない?」

中学の頃と比べれば、当たり前だけど大人っぽくなって変わっている。
でも……微笑んだ瞳の形は、あの頃のままだった。

そんな美里ちゃんに、頭の中に一気に中学の頃の光景が蘇る。


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