恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


うちに遊びにきた美里ちゃん。私のいない時を見計らって、美里ちゃんは由宇の部屋に忍び込んで由宇に手を伸ばし――。

パン!って頭の中で何かが弾けた音がして、気付いた時には由宇の腕を掴んでいた。

「渡さないから……っ」

叫ぶように言った私を、由宇は動揺した様子で見つめていて、美里ちゃんはキョトンとした顔をして見ていた。

「渡さない……! 由宇は、美里ちゃんにも、誰にも――っ!」

ドキドキドキドキ、気持ち悪いくらいに心臓が鳴り響いて呼吸が浅く速くなる。

いつか、名取くんと話した時みたいに、気分が悪くて倒れそうだ。
由宇が近くにいるのに、不安は止まることなく私全部を呑み込んでいって……何もない真っ暗な闇に突き落とされる。

何も見えない。無気力な空間。
お母さんに見捨てられた時に落とされた空間に、再び――。

途切れていく意識の中で、私の名前を呼ぶ由宇の声が聞こえる。
ぼやけた視界に映るのは、不安に顔を歪めた由宇の必死な顔。
悲しみをいっぱいにした瞳。

私を呼ぶ由宇の声が、何かを強く訴えかける。
必死な由宇の表情に、中学一年の冬の記憶が脳裏を駆け巡っていく。




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