恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―
「由宇くんを忘れるきっかけになったのは、恐らく……」
「美里ちゃんが、由宇に近づいたから……でしょ?」
黙ったまま私を見ているお父さんを、私も見ながら続ける。
「あの日、由宇は風邪を引いて寝込んでて……美里ちゃんがどうしてもお見舞いに来たいっていうから私が連れてきた。
私が、美里ちゃんを自分の部屋に通して星崎さんとお茶を用意してる間に、美里ちゃんは由宇の部屋に入って……。それで……」
部屋にいない美里ちゃんを探しに、私は由宇の部屋に向かった。
そこで目にしたのは、ベッドの傍らに膝をついて、寝ている由宇の頬に手を伸ばしている美里ちゃんで……。
頬に触れられた由宇は、美里ちゃんの手をきゅっと握った。
それを見た瞬間、目の前が真っ暗になって……そこから記憶が途切れた。
「由宇をね、獲られるって思ったの。
そしたら……お母さんが出て行った時と同じみたいに何も見えなくなっちゃって……」
「病院の先生も、そのトラウマのせいだろうって話してたよ」
今まで梓織には話してなかったけど。そう、お父さんが続ける。