恋よりもっと―うちの狂犬、もとい騎士さま―


「梓織の中の、お母さんのいなくなった寂しさみたいなモノを、由宇くんが埋めてくれたんだ。
由宇くんは、どんな時も梓織の傍にいて……支えてくれてた。
それは、無言の空間だったり口喧嘩だったり色々だったけれど……由宇くんが約一年かけて梓織を元気にしてくれたんだ」
「うん……」
「由宇くんは、梓織にとって失えない存在になった。
そんな時、美里ちゃんと由宇くんの事を見て……梓織はきっと、由宇くんが自分から離れていくかもしれないという不安に襲われたんだろうって先生は言ってた。
お母さんがいなくなってしまった時のようなショックから自分を守るために、自己防衛の形として由宇くんの存在を自分の中から消したんだろうと。
由宇くんが、本当に離れて行ってしまう前に」

あの時、自分がどう思い考えて、由宇を忘れてしまったのかは分からない。
ただ、真っ暗な世界に放り出されただけで、気付いたら……そのまま二ヶ月が経っていたから。
その間の事は今までももちろん、記憶を失った事を思い出した今も、ハッキリとは覚えていない。

でも。
私が自己防衛のために、由宇の記憶を消したのは……きっと事実だ。
分からないけど多分。そんな気がする。

私は、自分を守るために……由宇を傷つけたんだ。
そして由宇は、そんな私を責める事なく、黙ってた。

10年もずっとひとりで……きっと、耐えてたんだ。




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